オープンデータ情報ポータル

2013/05/13

リポート

 「多くの賞をいただいたのはありがたい。しかし本当に社会の役に立つのはこれからだ」――。

 オープンデータ活用を推進するための数々の取り組みは2013年に入り「オープンデータ流通推進コンソーシアム」「LODチャレンジ」など様々な場で表彰を受けた。そのお祝いを兼ねたミーティングで、中心人物の一人である国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員の庄司昌彦は檄を飛ばした。

 この日集まったのは、自身が納めた税金がどのように使われているのか直感的に把握できる「税金はどこへ行った?」や、オープンデータを整理し検索しやすくしたサイト「CKAN」日本語版などの開発に参加したメンバーたち。サラリーマン、公務員、起業家と立場は様々。ビジネスマン、エンジニア、研究者、とそれぞれの得意分野も違う。そうした異分野の人材が自発的に集まって形成されるグループこそ、オープンデータ活用の担い手だ。

 彼らの行動力と、庄司らがハブとなって進めたグループ間の連携によって、オープンデータ活用の事例は昨年後半から続々と誕生している。中でも「税金はどこへ行った?」は、横浜で初の日本語版が誕生した後、各地で同様の取り組みがなされるようになり、オープンデータの広がりを象徴する動きとなっている。

 

「Where Does My Money Go?」への視線

 「税金はどこへ行った」の原型となった「Where Does My Money Go?」は、英国に本部のあるグループ、オープン・ナレッジ・ファウンデーション(OKF)が開発した。OKFはルーファス・ポロック氏が2004年に立ち上げ、公共データの共有と活用を主な目的として活動している。現在は世界各国に広がりを見せ、日本にも2012年夏に拠点が誕生。庄司が代表を務めている。

 「Where Does My Money Go?」は英国内に住む人を対象に、自分のおおよその年収を入力すると、納めた税金が軍事や福祉、インフラ整備などにそれぞれどのぐらい使われているのかを直感的に把握できるようにしたものだ。

 この仕組みを日本にも導入したい、と早くから考えていた人たちがいた。その一人が元佐賀県CIOの川島宏一。現在は(株)公共イノベーションを起業するとともに、地域情報化アドバイザーとして全国のIT活用を支援している。

 位置情報に関するソリューションに特化したベンチャー企業の代表、関治之も「Where Does My Money Go?」に興味を持っていた一人だ。関がオープンデータに興味を持ったきっかけは、ネットである講演のビデオを見たことだった。

 それは、WWWの生みの親として知られるティム・バーナーズ=リーがTEDカンファレンスで行った講演。彼は2009年のTEDで「Raw Data Now!」と声高に叫び、公共データを開放すれば、企業や個人がそれを使って素晴らしい公共サービスが実現するだろう、とオープンデータの重要性を指摘した。そして翌年、自転車事故の地図上での表示など、多くの活用事例が登場したことを同会議で報告している。

 関は自社の業務に加え、エンジニアが互いに開発したソフトウエアのソースコードを公開し活用できるようにするオープンソースの活動にも積極的にかかわっている。オープンデータの話は自社の業務にも、オープンソースの活動にもかかわりがあるように思えた。何より、オープンデータにエンジニアがかかわることで、新たな価値を生み出せる可能性を強く感じた。

 そしていくつか事例を研究していく中で「Where Does My Money Go?」にも出会っていたのだった。

 

「税金はどこへ行った?」誕生

 2012年6月30日、庄司、川島、関が都内で一同に会する。庄司が所属する国際大学GLOCOMが主催した「オープンデータハッカソン」(写真 提供:関治之)に、関が運営に参加しているエンジニアコミュニティー「Hack for Japan」が協力。そこに川島も参加していた。

 「このハッカソンで、『Where Does My Money Go?』の日本語版を作ろう」と提案した川島に、関はすぐ賛同した。ハッカソンとは、短期間で集中してソフトウエアの開発を行うイベントの形態。このオープンデータハッカソンも2日間で終了する。その短時間で形にできるか、時間との勝負だ。

 素材として、横浜市のデータを使うことが決まった。システムに投入できるようデータの整理をするグループ、プログラムを書く開発グループなど、役割分担がなされ、作業がスタートした。

 だが早々にアクシデントに見舞われる。「Where Does My Money Go?」のソースコードはオープンであり、開発グループの仕事はまずこれを複製し、日本の状況に合うように改変し、そして日本語化すること。そして、「Where Does My Money Go?」がデータを呼び出しているデータベースサーバー「Openspending」に横浜市のデータを入力し、そのデータを読み込めるようにすることだ。

 ところが、その「Openspending」が、この日に限って落ちていた。

 仕方なく、関たちはサイトとデータベースとの間でやりとりをするAPIを想像しながら、JSON(JavaScript Object Notation)などを使って代替手段を講じていった。

 想定外の事態も乗り越え、2日間のハッカソンが終了するころには、何とか形にすることができた。日本版「Where Does My Money Go?」、すなわち「税金はどこへ行った」の誕生である。

 このハッカソンではほかに、オープンデータのポータルサイトである「CKAN」の日本語化など、数々の有意義な開発が行われたが、「税金はどこへ行った?」が最優秀プロジェクトに選ばれた。

 公開されたサイトはオープンデータ活用の先進事例として、またたく間に関係者の知るところとなる。横浜市の関係者も協力的だったが、基本的には立ち上げも運用も行政ではなく市民が行う、という点が、これからのオープンデータ活用の理想形を示していた。

 

そして全国へ

 しかし、このプロジェクトはここでは終わらなかった。

 川島はこうした可視化が多くの地域で進めば、市民がデータを参考に自分の暮らす町を選ぶ時代が来る、と考えていた。ハッカソンに参加したメンバーも、この取り組みが他の地域に波及するための準備を始めていた。

 手始めに関は、自分たちの地域で「税金はどこへ行った?」を立ち上げるための手順書を書き、ネットに公開した。その後、汎用性を高めるため他メンバーがハッカソン時には接続できなかったOpenspendingに対応させた。手順書も書き直された。

 こうした地道な準備が、大きく功を奏し始めたのが2013年2月の国際オープンデータデイ。世界100地域以上でオープンデータに関係するイベントが同時に行われる日だ。日本でも、青森、会津若松、東京、千葉、横浜、名古屋、鯖江、福岡市の8都市でハッカソンなどが企画された。

 千葉市では3つのグループに分かれてサービスの設計や開発を行ったが、そのうちのひとつが「税金はどこへ行った?」千葉市版の開発に取り組んだ。そこには川島の姿もあった。

 千葉市版が誕生すると、各地から続々と「私達の地域でも作りたい」あるいは「作った」という連絡がプロジェクトメンバーに届き始める。その中には関らと面識のある人もいたが、全く知らない人からの便りもあった。連絡をくれたのは市の職員であったり、エンジニアであったり、様々だ。

 庄司らが参加しているfacebook上のグループ「オープンデータ活用!」には、あいさつ代わりに「●●の『税金はどこへ行った?』を作ってみました」という書き込みもなされるようになった。「作っているが、ここが分からない」との書き込みがあれば、関たちがサポートする。

 2013年5月9日現在「税金はどこへ行った?」は横浜市、千葉市版のほか江別市(北海道)、札幌市、南三陸町(宮城)、仙台市、小金井市(東京)、北名古屋市(愛知)、京都市、福岡市版が稼動している。さらに複数の地域が準備中だ。

 各地の「税金はどこへ行った?」は、基本的に本家の「Where Does My Money Go?」とデータベースのサーバーを共有している。またウェブサイト部分は、これまでに作られたものからソースコードをコピーして改変したものを、エンジニア向けの情報共有サービス「GitHub」の無料サーバーに置いて運用している。つまり、立ち上げるのにほとんどコストがかからない。

 また技術的にも「決してハードルは高くない」と関は語る。「手順書も用意してあるし、2~3年ぐらいの経験があるエンジニアなら比較的容易に、自分たちの地域の『税金はどこへ行った』を立ち上げられる」。こうしたハードルの低さも、このプロジェクトが次々と広がっている要因のひとつだ。

 そして各地の状況に合わせたカスタマイズも可能。仙台市版や南三陸町版には、分類の中に「災害復旧」の項目も見て取れる。

 

意欲はどこから? そしてどこへ行く?

 どの地域でも「税金はどこへ行った」はボランティアたちが開発し、運用している。そのモチベーションはどこから来ているのだろう。

 関はこう話す。「僕の場合、オープンソースの活動に長く参加してきたのですが、基本的にそこはエンジニアだけの世界。でもオープンデータの活動では、政策の分かる人、データの分析ができる人などさまざまなスキルを持った人たちと一緒に取り組むことができる。オープンソースで培ってきた素晴らしい文化が、より広く、一般化してきたという感覚があります」。

 そしてオープンデータの活動は、その多くが「社会を良くする」という明確なゴールに向かっている。「そこに、何か自分のできることで貢献したいと考えている人は多いんじゃないかな」(関)。

 「税金はどこへ行った?」はもともと海外で作られた仕組みだが、日本の制度に合うように、そして日本人に訴えかけやすいように、少しずつ工夫も加えられている。今後もオープンデータ活用の象徴的な事例として、多くの人に刺激と気づきを与えながら、各地に広がっていくだろう。

 その先には、オープンデータを媒介に、社会の様々なセクターが柔軟に協力しあって課題解決を図る新たな協働のスタイルも見えてくる。税金はどこへ行った?がどこへ行くのか――そこに注視し、あるいは参加することが、ネット時代の新たな社会への扉を開くことになるのかもしれない。(文中敬称略)

 

関連リンク
「税金はどこへ行った?」江別市版 http://ebetsu.spending.jp/
「税金はどこへ行った?」札幌市版 http://sapporo.spending.jp/
「税金はどこへ行った?」南三陸町版 http://minamisanriku-cho.spending.jp/
「税金はどこへ行った?」仙台市版 http://sendai-miyagi.spending.jp/
「税金はどこへ行った?」小金井市版 http://koganei.spending.jp/
「税金はどこへ行った?」千葉市版 http://chiba.spending.jp/
「税金はどこへ行った?」横浜市版 http://spending.jp/
「税金はどこへ行った?」北名古屋市版 http://kitanagoya.spending.jp/
「税金はどこへ行った?」京都市版 http://kyoto-city.spending.jp/
「税金はどこへ行った?」福岡市版 http://fukuoka.spending.jp/